母子避難 心の軌跡 (3)

原発事故さえなければ、ごく普通に暮らしていたはずの母親からの訴え (3)

原発賠償関西訴訟 第9回口頭弁論期日での原告意見陳述 森松明希子 6月2日 大阪地裁

避難して初めの1年間は、
いつ戻れるか、いつになったら家族4人でまた再び一緒に暮らせるのか、
そればかりを考えていました。
これほど長期にわたり、見通しの立たない避難生活を送り続けることになるとは、
避難した当初は考えてもいませんでしたし、
避難生活は、苦痛以外の何ものでもありません。

ですが、5年経ち、次々と明らかになっていく客観的事実から考えれば、
子どもの健康被害のリスクを高めることになる「帰還」(戻る)という選択は、
少なくとも私にはありえません。

放射能汚染は、当然のことながら
強制避難区域や福島県境などの行政区域で止まるわけではありません。
風向きや降雨、地形などによって
ホットスポットが避難元にはいたるところに点在することが分かっています。

5年経った今でも、私の避難元・福島県郡山市には、
自宅の目の前に放射能のゴミが詰められているフレコンバッグが何百個も並んでいます。
その環境に幼い我が子を戻そうとは、私にはとうてい考えられません。

5年前、震災直後から、長崎から放射線の専門家という方が福島県にやってきて
「ニコニコ笑っていれば大丈夫」「鼻血は放射能を心配しすぎるお母さんの気のせいです」とふれ回り、
小児甲状腺がんは100万人に1人くらいしか発症しない、チェルノブイリとは違うんだ、避難をするなんて神経質すぎる、という風潮が作りあげられていきました。
ですが、5年経って、100万人に1人か2人しかならないはずの小児甲状腺がんは、
福島県内の18歳未満の子どもたちを調べただけで、年々増加し、現在166人と多発しています。
放射能による汚染は、福島県内にとどまりません。

日本国憲法の前文には、
「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」
と書かれています。
私は、東京電力福島第一原発事故以降、
放射線被ばくの「恐怖」から免かれ、平和のうちに生存していると思えたことは一度もありません。

あの日福島の空気を吸い、福島の水を飲んだ私たちにとって、
「被ばく」は、現実の恐怖以外のなにものでもなく、
避難できたからそれで終わり、ではありません。

私たちは、ずっとこの「恐怖」をかかえたまま
健康被害が発症しないことを祈ることしか出来ないのです。
被ばくと直面しながら、避難せずにいる人々と同じように、
子どもたちに甲状腺の検査を受けさせる度、胸が押しつぶされる思いがし、
検査結果の通知を開封する度、手が震えます。

ですから、私たちは、子どもたちの健康被害のリスクをもうこれ以上高めることはできません。

私は子どもの命や健康、そして未来を守るために、ただ、
避難を続けたいだけなのです。

それは「避難」という選択が、放射線被ばくからもっとも直截的に身を守る行為だからです。

母子で避難を開始した5年前から1年365日、一日も休むことなく、
毎日が「今日も避難を続ける」という苦渋の決断の連続なのです。

それでも私は、今日この法廷で意見陳述をしている今この瞬間も、
私たちが避難していることは、当然のことであり、
正当であると確信を持っています。

放射能は目には見えません。
でも、少なくとも、この法廷の原告席に座る一人一人は、
誰の目にも見えているはずです。
そしてその後ろにいる、
少なくとも全国各地に未だに10万人を超える「避難」をした人々の存在そのものが、
福島事故による放射能被害を見える形で映し出しているのです。
一番真剣に「被ばく」と向き合う人々の声を、裁判所には聞いて頂きたいと思います。

「放射線被ばくから免れ健康を享受する権利」は、
誰にでも等しく与えられるべき基本的人権ではないのでしょうか。

国策と大企業である東京電力により推進された原子力発電所の事故により、
避難を余儀なくされ、国の無策によって被ばくと向き合わされ続けることになった被害者に対し、
国と東京電力はきちんと向き合い責任を果たすべきであると考えます。

加害の側が被害を矮小化し、不均衡な支援によって被害者を分断し、
避難の継続を妨害し、実質的に帰還を強いるような施策の実施は、
さらなる重大な権利侵害であると思います。

裁判所におかれてましては、どうか
「ふつうの暮らし」をしていた人々の
「当たり前」の日常生活が破壊された実態と、
「被ばく」という「恐怖」と向き合い続けなけれならないという
甚大な被害に目を向け、
公正な判決と早急の救済を期待します。

裁判長、
人の命や健康よりも大切にされなければならないものは
ほかにあるのでしょうか?

私は、放射線被ばくから免れ、
命を守る行為が原則であると考えます。

以上

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