「陸の孤島」課題の山
朝日新聞8.13 伊方原発
避難経路に難 北8キロに最大級の断層帯
福島の原発事故後にできた新しい規制基準は満たすものの、事故時に住民は混乱なく避難できるのか、近くを走る大規模な活断層は大丈夫かなど、いまだ見方が分かれる。議論を尽くさないまま、見切り発車の再稼働となった。
■国道1本、点在する集落
伊方原発は東西に細長い佐田岬半島の付け根にあり、原発西側の「予防避難エリア」には約4700人が暮らす。避難計画を盛り込んだ政府の緊急時対応では、半島を貫く国道197号が通行できれば「陸路避難」するが、原発前を通るため、住民の抵抗感は強い。渋滞も懸念される。
道路が寸断されれば、船舶で「海路避難」するが、住民には荒天や津波の時にどうなるのか疑念もある。
半島にある集落の大半は国道197号沿いになく、海岸沿いに点在する。狭く急な道を数キロ上がれば国道に出るが、地震時に通れるかわからない。6月の豪雨で崩れたままの道もある。
陸路も海路も無理なら、多くは屋内退避となる。内閣府によると、原発の西側には耐震基準を満たす屋内退避施設が44カ所(計1万4476人収容)あり、津波に襲われても約7600人は収容できると見込む。
しかし強い揺れが続いた熊本地震を受け、屋内退避に不安が強まっている。原発から西20キロで柑橘(かんきつ)農家を営む藤原繁さん(58)は「『陸の孤島』になる。事故がないよう願うしかない」と話す。
朝日新聞社が6~7月に実施したアンケートでは、原発から30キロ圏の愛媛県内7市町のうち、八幡浜市など4市町が、避難経路について「整備が足りずに課題がある」と答えた。
住民から不安の声が出ていることに、愛媛県の中村時広知事は12日、「福島と同じことが起こることはない。考えられる最高の安全対策は施されている」と話した。
■伊方原発の北約8キロを、国内最大規模の活断層「中央構造線断層帯」が走る。
原発が地震で見舞われる最大の揺れの想定をめぐり、四国電力は原子力規制委員会の審査の当初、原発から近い全長54キロがずれる想定で揺れを570ガル(ガルは加速度の単位)としていた。だが、規制委から指摘を受け、中央構造線断層帯と大分県の別府―万年山(はねやま)断層帯を合わせた480キロが連動するケースも新たに計算。想定は650ガルに引き上げられた。
京都大原子炉実験所の釜江克宏教授(地震工学)は「650ガルは過小ではない」という。480キロが連動しても原発から離れた場所で発生した揺れの影響は比較的小さいことや、敷地の岩盤が固くて揺れにくいことから、妥当とみる。
政府の地震調査研究推進本部によると、中央構造線断層帯の愛媛に近い区間の平均活動間隔は約1千~2900年。原発周辺の断層帯が最後にいつ動いたかははっきりしない。熊本地震では、この地震が断層帯の地震を誘発するか研究者の見方が分かれた。東大の古村孝志教授(地震学)は「震源域の東への活動は収まってきているようにみえる。だが前回の南海トラフ地震から70年経ち、西日本の内陸地震は活発化してくると考えられる」と指摘する。
「現代科学では地下深くの震源断層の大きさや、断層がどれほどエネルギーをためているかを正確に捉えられない」。伊予灘の活断層を調査した高知大の岡村真特任教授(地震地質学)はこう語り、想定の一層の引き上げを訴える。
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