感謝と希望音色に重ね 避難の大熊中吹奏楽部
大熊町の大熊中吹奏楽部の集大成となる演奏会が十月十四日、東京電力福島第一原発事故に伴う避難先の会津若松市で開かれる。避難による生徒数の減少で部員が三年生四人となり、部は今年度で休部になる。生徒は卒業生らと七年半の感謝を伝え、古里に再び音色を響かせる-との願いを次のステージにつなぐ。
会津若松市一箕町の大熊中仮設校舎。放課後の音楽室でクラリネットの市川綾花さん(14)、チューバの青山蓮さん(15)、打楽器の半杭真奈さん(15)と渡辺菜々美さん(14)が音合わせを続ける。全員が中学入学後に楽器演奏を始めた。音符の読み方から覚えた青山さんは「最初は難しかったけど楽器にも慣れ、少人数の良さを感じている。音楽の質を高めたい」と練習に打ち込む。
大熊中には原発事故前の二〇一〇(平成二十二)年度、生徒約三百七十人が在籍していた。吹奏楽は東北大会に出場したことがあり、野球、柔道など多くの部活動で生徒の活躍が光った。原発事故で状況は一変した。今年度の全生徒数は十二人。部活動は吹奏楽部とソフトテニス部だけだ。吹奏楽部は大会出場に加えて、二〇一五年度に着任した顧問の酒井澄人教諭(53)の発案で秋には卒業生らを交えた演奏会を開いてきた。
多彩な楽器の音色が重なり合う吹奏楽。人数が限られる中、八月の大会はピアノ用楽曲を酒井教諭が編曲し、部員一人一パートを担った。大所帯の演奏を経験させたい-。酒井教諭は音楽の楽しさ、壮大さを生徒に伝えたかった。「少人数で思うようにできなかったと感じてほしくない。大熊中で良かったと思ってほしい」と卒業生や知人に協力を求めた。
これまでの演奏会に協力してきた会津シンフォニックアンサンブルや石川吹奏楽団に加え、郡山吹奏楽団や安積合唱協会、郡山市民合唱団のメンバーらが応える。総勢百人超の出演者が吹奏楽や合唱を披露し、大熊中の校歌で締めくくる。
四人は小学一年の時に被災した。東日本大震災から七年半が過ぎ、会津で過ごした日が古里での日々を超えた。半杭さんは町夫沢地区にある大熊中校舎を見たことがない。「実現するなら大熊で演奏してみたい。演奏会に来られない卒業生の分まで真剣に取り組む」と力を込める。市川さんは体調不良の中で避難し、優しくしてくれた会津の人々への感謝を持ち続けている。「部員としての誇りを持って臨む。伝統を受け継ぎ、最後の力を振り絞りたい」と意気込む。
卒業生に会えるのも楽しみだ。渡辺さんは「いろいろなことを教えてくれた先輩に会えるのはうれしい。思い出に残る演奏会にしたい」と再会を心待ちにしている。「夢のような演奏会で未来につなげたい」と酒井教諭の指導にも熱が入り、早川良一校長(55)も「部活動をやり抜き、生涯、音楽を楽しんでほしい」と期待する。
“未来をきずく わが誇り われら われら われら大熊中-”生徒の音楽が復興に歩む古里を勇気づける。
【写真】集大成の演奏会に向け、練習に励む(左から)市川さん、青山さん、半杭さん、渡辺さん
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