塾でも続いたいじめ 原発避難先の体験、当事者が明かす
小学2年で福島県から都内に自主避難してきたとき、持ってきたのはわずかな着替えだけだった。ランドセルも教科書もない。その後、卒業までの4年間、少年は断続的にいじめを受け続けてきたという。
「菌がうつる」「お前が触ると汚れる」「ただで住んでるんでしょ」――。そんな言葉を投げつけられた。教室に飾ってあった図工作品のうち、自分の作品だけに悪口が書き込まれているのを見つけ、捨てた。授業中に鉛筆の先で、足をつつかれたこともあった。
給食のときには班ごとに机をくっつけるのに、嫌がられた。無理につけようとすると、担任から母親に「落ち着きがない」と注意の電話が入ったという。少年は「足が痛くて立てない」と登校を嫌がるようになり、母親は数カ月で転校させる決意をした。
次の小学校では、全校児童の前で「福島から避難してきた」と紹介された。ここでも、「ただでいいところに住んでいる」「賠償金、いくら」と言われた。「天国に行かれますように」「悪魔に取りつかれませんように」。少年は七夕の短冊にそう記した。
小学5年のとき、母親が担任教諭に改善を訴えた。同じ学校には他にも避難者が通っている。それまでは「強く言って目立つと、他の避難者にも迷惑をかけてしまう」と我慢してきたが、限界だった。「3カ月待ってほしい」と担任に言われ、実際にその後、いじめはやんだという。
だが、塾では続いた。同じ学校の子がおり、学校での関係が持ち込まれた。
追いかけられて脱げた長靴をトイレの便器に入れられ、「お前のすみかだ」と言われた。残飯を入れたペットボトルを示され、「これを飲んだらもういじめない」とも言われたが、飲まなかった。母親が塾に指摘し、改善に向かったという。
離れた中学校に進学してからは、いじめはなく、友人たちと楽しく過ごしている。避難者だとは明かしていなかったが、のちに偶然知られてからも関係に変化はないという。「小学校では、『避難者だから対等じゃない』という感じだった。個性や違いのある者は認めない雰囲気で、避難者は特殊な属性と思われていた」と振り返った。
一家は自主避難のため、強制避難者に比べて受け取った賠償金はわずかだ。住宅提供も来年3月で打ち切られる。少年は「生活がどうなるのかわからず、とても不安」とも語った。
■「典型的いじめ、学校は対応を」
首都圏の避難者らでつくる「ひなん生活をまもる会」代表の鴨下祐也さん(48)のもとには、朝日新聞の取材に応じた少年のケースを含め、いじめを受けたという情報が6件、寄せられている。他にも、日常的に「菌」「汚い」と言われたと明かす子どもの声は多いという。「まったく根拠がない話。いじめで使われる典型的な言葉で、周囲の人たちは気がついているはずだ。学校がしっかり対応してほしい」と訴える。来年3月には住宅提供を打ち切られる避難者も多く、「追い出すような施策が、いじめを助長している。住宅提供の継続が必要だという訴えに、行政は真摯(しんし)に応じてほしい」と語る。
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