「古里の時間動かす」 中1帰還決意、級友と再会信じ

声聞こえますか:原発避難の子ども/1 毎日新聞9.05より

「じいちゃん、このイモすごく大きいよ。やっぱり楢葉はいいなあ」。8月上旬、夏休みに福島県楢葉町の自宅に戻った中学1年の草野貴央(たかひろ)さん(13)が、自宅の畑で掘り出したジャガイモを掲げると、祖父伝市(でんいち)さん(68)は表情をほころばせた。

 「戻ってきたいだろ」。何気ない様子で聞くと、貴央さんは思案顔になり、口をつぐんでしまった。

 2011年3月の東京電力福島第1原発事故当時、町立楢葉南小2年だった貴央さんは、いわき市に両親や弟、妹と避難し、借り上げ住宅から地元の市立小に通った。13年1月、いわき市に楢葉町立小中学校の仮校舎が開設されると「楢葉の学校に通いたい」と小4で転校し、町立中に進んだ。

 プロテニスの錦織圭選手にあこがれている。だが、テニス部は仮設校にはない。「仕方なく入った」バドミントン部だったが、入部3カ月で公式戦に出場した。同級生5人の部員と3年まで続けようと思った。

 伝市さんと祖母たけ子さん(63)は、宿泊が規制されていた昨年8月から自宅で寝泊まりし、帰還に備えた。「土を掘り、種をまき、実りに感謝する。一つ屋根の下で家族が喜びや悲しみを分かち合う。当たり前にあった生活をなくしたくない」と伝市さんは語る。国の除染後も賠償金を投じて庭や畑の土を入れ替えるなどし、国が行わない屋内除染のために業者を雇った。

 貴央さんは今年4月、町の避難指示解除が近いことを知った。仮校舎は17年春に閉じ、学校は戻る。だが、1年生16人のうち町に帰るのは2人。「今度はバドミントン部も無理だ」と思った。両親は学校再開に合わせて帰るつもりだ。「部活、続けたいなあ」。帰還の話になると、そんなことを口にした。

 一方で、祖父たちと暮らしたいとの思いもある。避難場所を転々とした小学3年のころを思い出す。強いストレスのためか、かけ算の九九だけでなく、足し算や引き算さえ一時分からなくなった。泣きじゃくる貴央さんに「一緒にがんばろうな」と付き添って教えたのが伝市さんだった。

 イモ畑で祖父に問われた時、貴央さんは何を言っていいか分からなかった。伝市さんは孫の胸中を知る。「勉強や部活、友人関係に思いっきりぶつかる年ごろに余計な苦悩を背負っちまった。でもな、くじけないでほしいんだ」

 イモ掘りから10日後。貴央さんは自転車で楢葉の家を飛び出した。向かったのは建て替え工事を終えた町の中学校舎。人けのない通学路を汗だくになって10分。白壁の2階建てはシンとして、時が止まったように感じた。「僕が戻れば、部員仲間や級友たちも戻ってくるかもしれない。僕の卒業後かもしれないけど、テニス部やバドミントン部も復活するかもしれない。僕は古里の時間を動かす一人になりたい」

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